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前橋地方裁判所 昭和43年(行ウ)44号 判決 1973年3月13日

原告 株式会社銀座

被告 桐生税務署長

訴訟代理人 森脇勝 外八名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一  請求原因の一項ないし四項の事実および原告と訴外株式会社浅草とかいずれもパチンコ店経営を業とし、代表者を同じくする姉妹会社であることから事務所は双方に共通であり同一の事務員によつて経理が行われ、同一人によつて現金の管理がなされていたことは、当事者間に争いがない。

二  架空および他人名義普通預金の帰属

<証拠省略>を総合すると、以下の事実を認めることができる。

(一)訴外横浜銀行桐生支店に、青木俊雄、今井義一、町田三郎、松崎八郎、下山洋一、亀山幸雄、松田一および原田太市各名義の普通預金が存在していたが(口座番号は別紙第四目録記載のとおり、同目録に記載のない原田太市名義普通預金の口座番号は二、八三〇)、右のうち亀山幸雄を除く各名義人は、それぞれの普通預金元帳に記載された住所に住民登録がない。また<証拠省略>によれば亀山幸雄なる者は実在するが、同人は原告会社の従業員である。

(二)  右の各普通預金には次のような特徴がある。

(1)  青木俊雄、今井義一、下山洋一各名義の普通預金は均一日掛入金がなされており、亀山幸雄、原田太市各名義の普通預金においても日掛入金がなされていた。

(2)  被告は昭和三九年一一月下旬に原告の所得調査に着手したが青木俊雄、今井義一、町田三郎、松崎八郎、下山洋一各名義の普通預金は、それとほぼ同時期の同年一〇月二八日ないし同年一一月二一日を最後に預入、払戻が中止され、以後は利息加入のみがなされている。また、原田太市名義の普通預金は本件事業年度より前の昭和三五年四月一四日に解約され、亀山幸雄、松田一各名義の普通預金は被告の右調査着手時より前に預入、払戻が中止されている。

(3)  青木俊雄、今井義一、松崎八郎、下山洋一、亀山幸雄、原田太市各名義の普通預金元帳には住所として桐生市本町六丁目と記載されているが、これは原告の本店所在地と一致する。また、町田三郎名義の普通預金元帳には住所として桐生市本町五丁目と記載されているが、これは株式会社浅草の本店所在地と一致する。

(4)  亀山幸雄という姓名のものが、原告の従業員中に存在することは前記のとおりであり、さらに原告会社において経理事務を担当している従業員の姓名は下山洋一と一字違いの下山洋子である。

(5)  今井義一名義の昭和三五年四月三〇日付普通預金払戻請求書の「横浜銀行殿」という不動文字の左下に鉛筆書きで「銀座」と記されており、同人の同年二月一二日付普通預金入金票にも「今井義一」というペン書きと重なつて鉛筆書きで「銀座」と記されている。また同日付の青木俊雄の普通預金入金票にも、「青木俊雄」というペン書きと重なつて鉛筆書きで「浅草」と記されている。

(6)  松崎八郎名義普通預金の昭和三九年一〇月二八日付の金三〇〇、〇〇〇円の普通預金払戻請求書の裏面に一一三、八〇〇円プラス一八六、二〇〇円たる金種区分の表示があるが、同日付で横浜銀行桐生支店から同銀行高崎支店の岸良和の当座口へ原告の当時の代表取締役小太刀賢次名義で、金一一三、八〇〇円が振込送金されている。

昭和三九年一月二九日に、下山洋一名義普通預金から金六二〇、〇〇〇円、松崎八郎名義普通預金から金五五三、一五〇円、今井義一名義普通預金から金六〇八、一五〇円が払戻されたが、その合計欄にあたる金一、七八一、三〇〇円が同日付で横浜銀行桐生支店から同銀行東京支店の藍沢証券株式会社の当座口へ大岩ミネ名義で振込送金されている。同証券株式会社は同日付で右金一、七八一、三〇〇円を大岩ミネ名義の証券取引口座に入金したが、同社保管の同人名の振替入金伝票には「小太刀殿依頼」という記載がある。

(7)  横浜銀行桐生支店の昭和三五年二月三日の入金伝票によると、出納番号一二ないし一七の取引先名は順に株式会社浅草、原告、株式会社浅草、亀山幸雄、青木俊雄、今井義一となつている。

同様に、同月二九日の出納番号五二ないし五六は順に青木俊雄、今井義一、下山洋一、亀山幸雄、原告、同年三月一八日の出納番号七九ないし八四は順に今井義一、青木俊雄、亀山幸雄、原告、株式会社浅草、南銀座(株式会社浅草の伊勢崎営業所)、同月二一日の出納番号九四ないし九九は順に南銀座、原告、株式会社浅草、亀山幸雄、今井義一、青木俊雄、同年四月一一日の出納番号一ないし一〇は順に原告、同、南銀座、株式会社浅草、亀山幸雄、同、青木俊雄、同、今井義一、同、同月一二日の出納番号二ないし八は順に小太刀セン、亀山幸雄、今井義一、青木俊雄、南銀座、株式会社浅草、原告、同月一三日の出納番号一ないし六は順に原告、南銀座、株式会社浅草、今井義一、青木俊雄、亀山幸雄、同月一八日の出納番号三ないし八は順に青木俊雄、同、亀山幸雄、同、今井義一、同、となつている。

右昭和三五年四月一八日の出納番号三の入金票には欄外に「109、150-」という記載があるが、これは右出納番号三ないし八の入金額の合計と一致する。

(8)  前記(7) の各入金伝票の出納係欄押捺の印影はすべて同一である。

(9)  横浜銀行桐生支店の昭和三五年四月一四日付入出金伝票によると、次のような預金相互間の振替がある。

(イ) 原田太市名義の普通預金から金五、四三二円が払戻され、同一金額が松崎八郎名義の普通預金に入金されている。さらに、右の原田太市名義普通預金払戻請求書の左下すみに「解約- No.2627」との記載があり、その数字部分は抹消されているが、この二六二七という数字は松崎八郎名義普通預金の口座番号と一致する。

(ロ) 松崎八郎名義の普通預金から金六一、二〇四円が払戻され、同一金額が青木俊雄名義の普通預金に入金されている。

(ハ) 松崎八郎名義の普通預金に金二九四、〇〇〇円、町田三郎名義の普通預金に金一八三、〇〇〇円がそれぞれ入金されているが、その合計額にあたる金四七七、〇〇〇円が青木俊雄名義の普通預金から払戻されている。

(ニ) 右(ハ)の松崎八郎名義普通預金の入金票には、「現金」として金二九四、〇〇〇円、「cash」として金四六、五六〇円、合計金三四〇、五六〇円と記載されてあり、金四六、五六〇円についてのみ金種別が表示されている。

(10)  さらに、別紙第五目録(1) ないし(4) 記載のとおりの預金相互間の預け替えがなされている。

(11)  前記小太刀賢次名義の昭和三九年三月三〇日付普通預金払戻請求書の筆跡と今井義一の同日付普通預金払戻請求書の筆跡とが極めて類似している。そして前者の筆跡は、原告の昭和三九年二月一日がら同四〇年一月三一日までの事業年度の法人税確定申告書および株式会社浅草の昭和三七年三月一日から同三八年二月二八日までの事業年度の法人税確定申告書における当時の代表者小太刀賢次の自署すべき部分の筆跡と一致している。

以上の事実が認められ、これを総合すれば、前記(一)記載の青木俊雄名義ほか七口の普通預金はいずれも原告および株式会社浅草に帰属するものであり、原告および株式会社浅草の簿外の収入がこれらの普通預金に預け入れられていることを推認することができる(これらの普通預金が原告の正規の備付帳簿に記載されていないことは弁論の全趣旨によりこれを認めることができる)。右認定に反する<証拠省略>は信用できず、<証拠省略>も右認定を覆すに足りず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。なお<証拠省略>によれば、原告会社の従業員である亀山幸雄自身に帰属する普通預金が、前述のものとは別に、横浜銀行桐生支店の口座番号一、四三五として存在することが認められる。

三  推計課税の許否

前記二のとおり、原告が備え付けている諸帳簿類は取引の一部を隠ぺい仮装した記帳があるなどその信頼性が乏しいので、原告に対し、旧法人税法(昭和二二年三月三一日法律第二八号)三一条二項により、原告の財産の増減の状況、収入若しくは支出の状況およびパチンコ遊戯機械の台数その他事業の規模等にもとづき、所得金額を推計して国税通則法二四条による更正をなすことができる。

原告は、原告が青色申告の承認を受けていたから推計課税を行なう前提条件が欠けているというが、被告が原告に対し本件事業年度以降の青色申告の承認取消の処分をなしたことは当時者間に争いがなく、該処分が適法であることは後記七のとおりであるから、推計課税を行なう前提条件に欠けるところはない。

四  課税所得金額の算定

(一)  総収入金額

(1)  被告は、前記二の八口の架空および他人名義普通預金のうち本件事業年度より前に解約された原田太市名義普通預金を除く七口の普通預金の、本件事業年度における預入総額から、売上収入金額は直接関係のない金額(預金相互間の預け替えによる預入額-その詳細は別紙第五目録(1) 、受取利子預入額等の合計額)を差引いた残額を、原告および株式会社浅草の本件事業年度における簿外収入金額と計算したと主張するが、この方法は合理的であると認めることができる。その金額は、<証拠省略>によれば、別紙第一目録のとおりであると認められる。なお<証拠省略>によれば前記松田一名義普通預金は、本件事業年度においては利子の預入のみで他に預入はないから、右預金に原告の本件事業年度の簿外収入は含まれていないことが認められる。

原告は、仮に右七口の普通預金が原告に帰属するとしても、その期中預入額はほとんどが期中に払戻されており、払戻金の行方として判明しているのは架空名義の定期積金に本件事業年度に預け入れられた金額のみであるから、簿外収入とするのは右金額のほかには各預金の期末残高を加えた総額にとどめるべきであるというが、ここで算出しようとしているのは本件事業年度中の益金の額なのであり、損金は別に算定してこれを控除する(法人税法二二条一項)のであるから、原告主張のように本件事業年度末に残存するもののみをもつて本件事業年度中の益金の額とすることは正しい方法ではない。

(2)  右の簿外収入は、原告の収入と株式会社浅草の収入とが混合されているから、これを分別するには推計によるしかなく、その方法として両会社のパチンコ遊戯機械台数の割合でこれを按分するのは合理的な方法であると認めることができる。本件事業年度における遊戯機械台数が、原告二四〇台、株式会社浅草二九一台であることは当事者間に争いがない。按分の計算は別紙第一目録下欄のとおりである。

(3)  被告は、右(2) によつて算出された原告の簿外収入金額を原告の正規の公表帳簿に圧縮され記帳されていた収入金額(申告額)に加算して、原告の総収入金額と計算したと主張するが、右簿外収入金額と申告収入金額とに重複する部分があると認めるべき特段の事情のない本件においては、右の方法は合理的であると認めることができる。その計算は別紙第二目録(1) のとおりである(原告の申告による収入金額が同目録記載の金額であることは当事者間に争いがない)。

なお原告は、前記各普通預金の使途の判明しない期中払戻金は収入原価に使用されたとみるべきであり、期中預入額を申告収入額に加算する以上は、右払戻金を申告収入原価に加算するべきであるというが、右払戻金の全額が収入原価に使用されたとみることは妥当でなく、また払戻金中収入原価に使用された額を個別に認定することも困難であるから、後記(二)のように統計学的方法によつて原告の収入総利益率を算出し、これによつて収入原価(損金)を推計するのが合理的な方法である。この場合右期中払戻金中の妥当な額が収入原価として評価されていることになるのであるから、原告の主張は失当である。

(二)  収入総利益率

被告は、本件事業年度当時に桐生市および伊勢崎市にあつて原告と同じ事業を営み、青色申告をたしていた五法人の収入総利益率を基礎係数とし、標準偏差から限界値を求める方法を用いて得た平均値二二・七〇パーセントを原告の収入総利益率としたと主張するが、前記のように原告の収入原価を個別に把握することが困難である以上は、このように統計学的方法を用いることは合理的であると認めることができる(<証拠省略>によれば、算術平均によらず右の方法を用いることがより合理的であると認められる)。<証拠省略>によれば、右の基礎係数の正確性を疑うべき事情はないことが認められ、その計算も正しい。

原告は、右の推計方法は各業者の営業状態の差を無視したものであつて合理性を欠くというが、各業者の営業状態に差があるのは当然のことであつて、その平均値を求めるのが右推計方法の目的なのであるから、原告の営業状態が同業者の平均よりはるかに悪いということを原告が立証すれば格別(<証拠省略>によるもこれを認めるに足りず、他にこれを認めるに足る証拠はない)、そうでない限り、原告の右主張は採用の限りでない。なお、基礎係数とされた法人数が少数にすぎるということもない。

(三)  課税所得金額

前記(一)で算出した総収入金額に前記(二)で算出した収入総利益率を乗ずれば推計による原告の収入総利益金額が算出されるから、さらに別紙第二目録(2) 記載の計算過程を経て、原告の本件事業年度における課税所得金額が金八、五八五、二二四円と算出される(被告主張の推計方法を前提すれば、原告の課税所得金額が右の金額になることは当時者間に争いがない)。

五  前記四により算出された原告の本件事業年度における課税所得金額八、五八五、二二四円は、本件更正処分が課税所得金額とした六、〇八三、五五一円を上回つているから、右更正処分に違法の点はなく、これを取消すべき理由はない。

六  重加算税賦課処分について

前記二で認定したとおり、原告はその取引銀行に仮名および他人名義の預金を設定し、取引の一部を隠ぺい仮装して、それにもとづいて納税申告書を提出したのであるから、国税通則法六八条によつて請求原因の三の1記載の税額の重加算税を賦課すべきこととなるのであり、右賦課処分を取消すべき理由はない。

七  青色申告承認取消処分について

前記二で認定したとおり、原告の本件事業年度に係る備付帳簿には取引の一部を隠ぺい仮装した記載があり、その真実性を疑うに足る理由があるものであるから、被告は法人税法一二七条一項三号により、原告の受けた青色申告の承認を、本件事業年度までさかのぼつて取消すことができるのであり、この青色申告承認取消処分を、いま取消すべき理由は見当らない。

八  源泉徴収による所得税の納税告知処分について

<証拠省略>によれば、昭和三七年一月二二日に原告および株式会社浅草に帰属する前記下山洋一名義普通預金から金四〇〇、〇〇〇円が払戻され、それが同日丸荘証券株式会社へ証券取引のため入金されたことおよび右証券投資は原告の当時の代表取締役小太刀賢次自身が個人的になしていたものであることが認められ、右認定に反する<証拠省略>は信用できない。そして弁論の全趣旨によれば、原告は本件事業年度の決算期を経過するも右小太刀賢次に対し、右金四〇〇、〇〇〇円の返還を請求しなかつたことが認められるから、右金員は、原告が同人に対し給付したものと考えるべきである(右金員は原告および株式会社浅草に帰属していたものではあるが、これを株式会社浅草が給付したものとしても、あるいは原告と同社とが遊戯機械台数の割合で按分した金額をそれぞれ給付したものとしても、原告および株式会社浅草が納税すべき源泉徴収所得税の合計額は同じであるから、前記一の如き原告と株式会社浅草との関係に徴すれば、原告のみが右金員を給付したものとしてさしつかえない)。

右給付は原告の役員である小太刀賢次に対する臨時的な給与であつて賞与とみなされ(法人税法三五条四項)、右の払戻をなした日をその支払日と考えるべきであるから、支払日当時の旧所得税法(昭和二二年三月三一日法律第二七号、昭和三六年法律第三五号改正)三八条一項七号により算定されるところの請求原因三の3記載の額の源泉徴収による所得税につき、被告は国税通則法三六条一項二号により、これを徴収しようとするとき納税の告知をしなければならないのであり、右納税告知処分を取消すべき理由はない。

九  源泉徴収加算税賦課処分について

原告が前記八の源泉徴収による所得税額を法定納期限(昭和三七年二月一〇日)までに徴収納付しなかつたことは当時者間に争いがないから、被告は法定納期限当時の旧所得税法(昭和三二年法律第二十七号改正)五六条四項によつて請求原因三の3記載の額の源泉徴収加算税を賦課すべきこととなるのであり、右賦課処分を取消すべき理由はない。

十  以上の次第で原告の本訴請求はすべて理由がないからいずれもこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 植村秀三 柳沢千昭 出田治男)

別紙目録<省略>

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